遺言書で生命保険金の受取人を変更する方法と裁判例
お久しぶりです。
弁護士法人心、弁護士の林です。
皆様はどのようにお過ごしでしょうか。
私は、先日、豊田の鞍ヶ池公園までドライブに行きましたが、暑すぎたので早々に帰宅してしまいました。(笑)
さて、今回は、生命保険の受取人を遺言書で変更する方法とその記載方法について、解説していきたいと思います。
1 原則
まず、そもそも保険金の受取人を遺言書で変更することは可能なのでしょうか。
この点、保険法44条1項は、
「保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。」
と規定しています。
そのため、遺言書によって保険金の受取人を変更することは可能なのです。
但し、同条2項は、
「遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することができない。」
と定めています。
この規定により、例え遺言書で受取人の変更を行ったとしても、保険会社が先に元の受取人に保険金を支払っていた場合には、保険会社に対して責任追及を行っていくことはできないということになります。
相続人の方は、この規定に注意を払って、なるべく早期に行動するように心がけることが重要でしょう。
2 遺言書の記載方法
では、遺言書で受取人の変更を行う場合には、どのような記載方法を取ればよいのでしょうか。
ここでは、一般的に推奨される方法と裁判例から見る傾向を見ていきましょう。
ア 一般的に推奨される記載例
一般的に、遺言書で保険金の受取人を変更する場合には、できる限り以下の要素ごとに特定して記載することが望ましいとされています。
①証券番号
②保険会社名
③契約締結日
④保険契約者
⑤被保険者
⑥受取人
この6つの要素で、なるべくどの生命保険の受取人を変更するのかについて疑義が入らないようにすることが重要であるとされています。
このことから、記載としては、
「遺言者は、下記に記載する生命保険契約の受取人をAからBに変更する。
記
①証券番号 ○○-○○-○○
②保険会社名 ABC生命保険
③契約締結日 令和6年8月20日
④保険契約者 遺言者
⑤被保険者 遺言者
⑥受取人 遺言者の妻・A 」
等と記載するのが良いでしょう。
イ 裁判例
もっとも、必ずこの記載方法でないと受取人の変更が認められないというものではありません。
なぜなら、上記の保険法では、遺言書の書き方について法定されているわけではなく、遺言書は本来、その記載文言から、遺言者の意思を解釈していくことができるからです(「遺言書の形式的な記載だけでなく、遺言者の状況等からその真意を探求していくべきである」とした判例として、最判昭和58年3月18日があります。)。
そして、裁判例でも、生命保険の契約者兼被保険者である遺言者が「一切の財産をAに相続又は遺贈する」(原文と相違がある可能性があります。)という趣旨の遺言書を残した事案で、この遺言書から生命保険の受取人を変更することを認めた裁判例(京都地判平成18年7月18日)があります。
この裁判例では、形式的に受取人となるのは遺言者の子供でしたが、遺言者が遺言書を作成した当時、遺言者と子供は疎遠であり、電話や訪問を受けていなかったこと、遺言者が遺言書を作成したのはAの自宅で療養を受けた恩義に報いる趣旨であったことから、遺言者の意思としては、保険金を含む全ての財産をAに渡す意思であったとされたのです。
ウ まとめ
このように、生命保険金の受取人の変更に関して遺言書を記載する場合には、なるべく特定して書くことが望ましいものの、形式的に変更の意思が書かれていなくても、実質的に変更を認める余地があります。
そのため、保険金の受取人について疑義がある場合には、弁護士に相談するようにすると良いでしょう。
では、また次回のブログでお会いしましょう。